2006-06

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環境という視線 1

宮下正次著
『炭はいのちをも救う』・評(リベルタ出版)
―「図書新聞」掲載
 
 ここ数年、炭のパワーが注目されている。炭をやかんの水に入れておくと水がおいしくなる、ご飯を炊くときに入れるとおいしくなる、部屋の隅におくと空気が浄化されるなどなど。わが家でもマツカサやリンゴに炭の粉を吹きつけたオブジェをいただいて部屋に飾ってある。
しかし、その炭のパワーが森の再生と密接に結びついているのだということは、今回本書を読んで初めて知った。
 森が危ないということを自分の目で実感したのは3年ほど前の夏に郷里の秋田に帰省したときだった。墓参りのために車で由利本荘市までの日本海沿いを走ったのだが、沿道の防風林のマツがすっかり赤茶けていて、それが延々とつづいているのだ。その後も毎夏通るのだが、いっこうに回復の兆しがない。対策は立てられないのだろうかと気になってしかたがなかった。
 ところが、本書を読むと、日本各地の状況はさらに厳しさを増していて、針葉樹ばかりか広葉樹の枯れも始まってきたという。広葉樹林ではドングリが結実しにくくなったという報告も届いているそうだ。川もヘドロ化して、魚、とくにアユやワカサギは激減しているという。だから食料を失ったクマやシカなど山や森に住む動物たちが、里に下りて来ざるを得なくなっているのだ。 
森林はなによりもまず森に住む生き物たちのものだ。さらに水を保有する水源涵養機能や土砂の流出を防ぐ土壌の緊縛力など、人間の暮しがこうむっている恩恵ははかりしれない。森林浴など人間の心身に及ぼす影響も大きい。大切な森が失われていくということは、人間の暮しの基盤が損なわれていくということなのだ。
 これまでも森林破壊、河川汚染の原因と対策についていろいろな角度から語られてきたが、著者はこうした自然の異変は「酸性雨」であると言い切る。
 本書で明らかにされているように、これまで行政や学者たちは、たとえば松枯れの原因は「マツノガイセンチュウ」という害虫のせいだ、アユの激減は水が冷たいために起る冷水病だ、ワカサギの減少はエサになるプランクトンがいなくなったからだといったように、起っている事象に対して、個々に原因を探り対策を取るということに終始してきたという事実がある。各地方自治体どうしの連携、官と民の研究成果の分かち合いといった相互の関係性の希薄さなどが、今日、ここまでの悪化を招いてしまった大きな一因にちがいない。これは、いまあらゆる場面で噴き出している縦割り行政、縦割り医療、縦割り組織の悪弊と同じ図式であろう。
 著者は一見バラバラに見えるこうした自然異変の原因を、「酸性雨」というキーワードを中心にすえることで見事に読み解いていく。
これらの異変は長い年月にわたって酸性雨が降り注いだ結果、「酸性雨が土壌中の微生物を殺し続け、生命循環の輪を壊してきた」からだと言う。土中のバクテリアはPH七(中性)で最も活発に活動できるのだが、PH五以下ではもはや生きられない。それが、日本海側の豪雪地帯の森の土壌はPH三・六という強酸性を示しているところまであるそうだ。さらにこうした強烈な酸性雨は「土壌の中から猛毒のアルミニウムを溶かして、実を作るうえで大切なリンを奪って、実を結べない森を作ってきた」のだと言う。土から栄養をもらえなければ木は枯れていくしかない。
 酸性雨とは言うまでもなく、化石燃料の使いすぎや車の排気ガスなどによる大気汚染によって引き起こされたものであるが、まさか日本の森林にもここまでの被害が及んでいたとは。
そこで登場するのが「炭」である。
 「炭は溶け出した猛毒のアルミニウムイオンを吸着し、微生物に住みかを提供する。(略)枯れの広がるマツの根元に炭を入れてやると、マツは元気を取り戻してきた」「炭は古くて新しい素材。燃料としてのエネルギーから、生命維持の特効薬として生かす時代になってきた」
 著者は「炭パワー」の伝道師として、韓国や台湾、ドイツやアフリカにまで越境していく。関東森林局に長く勤め、森林を深く愛してきた著者だからこそ酸性雨と炭のパワーを結びつけることができたし、国境を越えた活動をすることもできるのだろう。
 本書によれば、枯れのすすむ森林に炭を撒きつづける「炭緑化運動」が各地に広がっているという。「これまでの薬による後追い策では、日本は森を失ってしまう。微生物との共生を考えた事前対策に変えなければならない」という著者に同感である。
 森林の手入れのために切られた間伐材を焼いて炭にする。その炭によって森自身が再生する……なんと見事な循環だろう。自然の偉大さを思わずに入られない。


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プロフィール

梶葉子

Author:梶葉子
読書のよろこびはなにものにもかえがたいものです。
私を実に実に遠くまで連れ去って
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そこに吹く風や漂う香りを感じさせてくれる
書物に感謝しつつ
ささやかな感想をしたためていきま

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