2006-07

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〈信〉ということ 1

ジェラルド・L・シッツァ?著 朝倉秀之訳
『愛する人を失うとき―暗闇からの生還』・評(教文館)
―「図書新聞」掲載

 生きているかぎり、あらゆる喪失が私たちを襲う。家族の死、離婚、病、失業……喪失を契機に世界が一変する。たとえ少しずつ元気になったように思えたとしても、もう前のようには生きられないことに気づいて愕然とする。「喪失からの回復」はありうるのか。
 アメリカの大学で宗教学と哲学を教えている著者は、三年前に交通事故で一度に母、妻、娘の三人を失った。本書はその苛酷な体験に基づいている。ここ数年、喪失をテーマにした著書がさまざまに出版されているが、本書の特長は、「喪失からの回復」の根幹に、著者の信ずるキリスト教の「神」がおかれていることだろう。著者はこの突然の喪失の前に打ちのめされながら神の存在を問い直し、やがてもっと深く神に出会う。私たちは本書を通して「神とは何か」「信仰とは何か」という問いの前に改めて立たされていることに気づく。
 十五章からなる本書は、著者の経験を下敷きに「もっとも大切なものを失ったとき、人はどう生きていけばいのか」「再び生の喜びを感じ取ることはできるのか」「できるとしたら、それはどういうプロセスを経て可能になりうるのか」という核心に、一枚一枚薄紙をはがすように周到に迫っていく。
 暗闇こそが光の存在を際立たせる。喪失の悲しみから逃げ出さず深い悲しみとともに生きることを通じて初めて魂は覚醒する。深い悲しみは「私たちに人生それ自体の不思議さに気づかせ、回りの世界に対する鋭い認識を与え、私たちに迫ってくる一瞬一瞬を心から感謝するようにさせる」(82頁)。この一瞬一瞬こそ「永遠の今」と呼ばれる「恵みの贈り物」である。「いくら苦痛に満ちているとしても、この時は、私たちが生き生きと神を知ることになる唯一の時」であることに、事故後三年という長い「暗闇」を経て、著者は初めて思い至る。
 「喪失によって、破壊される人は多い」(110頁)と著者は記す。喪失に苦しみ、復讐や自己憐憫にのたうちまわる苦闘の期間が過ぎたら、「こうした自暴自棄の感情にこのまま我が身をまかせるかどうかを決めなければならない」(113頁)。そこで、著者は、「選び」と「恵み」の二つのキーワードを提示する。私たちが神から受ける「恵み」はあらゆる瞬間瞬間にあるが、それを受けるためには私たちが自分の意志で行う「選び」が必要なのだ。「選び」は「信」といってもいいだろう。喪失によって人ははじめて「恵み」に気づき、「選び」の重要さを知る。
 「喪失したからといって、私たちは孤立して一人ぼっちだと感じる必要はない。喪失は私たちが一人で直面しなければならないただ一つの体験ではあるけれど、それはまた、私たちを共同体へと導くことのできる共通の体験である。喪失は破れの共同体を作り出すことができる。私たちは一人で喪失という暗闇に入らなければならないが、一度そこに入れば、私たちは一緒に人生を分かち合うことのできる他者を見出すことになる」(199頁)。  
 信仰をもたない私(たち)は、喪失に直面したとき自力で価値観の転換をはかり、喪失後の人生に再び参加して行かなくてならない。しかしもしその暗闇から生還できるとしたら、そのとき私たちもまた私たちなりの仕方で「神」に出会っているのかもしれないと思う。本書を読み終えた今、「神」は魂の救済という場所においては誰にとっても普遍的な存在であり、「信仰」は自然な魂の活動であるといえるような気がしてならないのだ。喪失に直面したとき、著者のような信仰をもっていなくても、私たちの生そのものが「神」とでも名づけたいある意志的存在のはからいであるという思いが誰にも去来するだろう。
 しかしそれにしても、と思う。彼らには「この地上のものを包む別のもっと大きな現実がある」のだ。死んだものたちは天国にいて「神の現臨の中に生きており、私が切に入りたいと願う現実の中に生きており、しかも、神の至福の時の中に生きている」(228頁)。
 死者たちが神と共に暮らすこうした「永遠の王国」を魂の基盤に据えて生きる人々の前に私はたたずむのみである。
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プロフィール

梶葉子

Author:梶葉子
読書のよろこびはなにものにもかえがたいものです。
私を実に実に遠くまで連れ去って
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そこに吹く風や漂う香りを感じさせてくれる
書物に感謝しつつ
ささやかな感想をしたためていきま

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