2006-10

物語のなかへ 8

村田孝子・鴨川和子著
『シルクロードの赤い宝石―トルクメンの装身具』・評(ポーラ文化研究所)
―「図書新聞」掲載

 表紙を飾る首飾りに思わず目を奪われた。首飾りといってもまるで王冠のように豪奢で迫力がある。銀地に鍍金をして曲線の模様を線刻した美しい板、そのところどころに真っ赤な石が埋め込まれている。下には先端に鈴や鏃のような形のぶら下がった細い鎖が20個ほど揺れている。いったいどんな人々がこのような美しい細工の装身具をつくりだし、身につけていたのだろう。興味津々で本書をひらいた。
ポーラ文化研究所が発行するポーラ・コレクションシリーズ第6弾にあたる本書は、同研究所が91年から集めたトルクメンの装身具コレクションを紹介したものだ。
 トルクメンは現トルクメニスタンで西をカスピ海に接し、イラン、アフガニスタン、ウズベキスタンに囲まれた国である。国土面積は日本の1・3倍だが、国土の5分の4は砂漠で、人口は480万人。ソビエト連邦崩壊によって91年に独立を宣言したそうだが、もともと国境の線引きなどを必要としない遊牧の人々であった。
 シルクロードの衰退とともに歴史の表面から消え去り、アラブやモンゴル、チムール、ウズベクなどの支配に翻弄されながらも受け継がれてきた民族文化と美しい装身具を眺めていると、シルクロードを隊商が行き交う様子やオアシスの木陰、円形の天幕「ユルタ」で暮す人々のざわめきや息遣いといったものまでも伝わってくるかのようだ。
 10世紀にはほぼ完全にイスラム教圏になったトルクメンだが、装身具類は起原的にはキリスト教発生以前にまでさかのぼることができるそうだ。また、王冠などには帝政ロシアの影響も見られるという。実に長い歳月に渡ってこの装身具と付き合ってきた人々なのである。装身具類は、第一次世界大戦後の政治的経済的混乱の中で手放したり、供出させられたりしたものが多いそうだから、ここまでの蒐集には大変な努力を要したことだろう。
 装身具はほとんどが女性用で、頭飾り、こめかみ飾り、耳飾り、鼻飾り、髪飾り、首飾り、胸飾り、背飾り、首に下げる護符入れ、腕飾り、手飾り、指輪……と、身体のあらゆる部位を飾りたてるように細分化されている。
 身分の相違は衣服よりも装身具によりはっきりと現れているそうで、銀地に鍍金したり、あるいは銀地だけだったり、線刻の模様もさまざまだが、部族、身分を問わず、真っ赤な石がはめ込まれていることだけは共通している。正装用のベールやドレスも紹介されているが、それもまた真っ赤な生地に刺繍がほどこされたインパクトのあるものだ。
 花嫁の着付けを再現した写真が掲載されているが、真っ赤な衣装をまとい、赤い石で荘厳された女性は息をのむように美しい。石は石英の一種の紅玉髄というものだそうだが、
 「しかし、代用として赤いガラス玉も用いられている。石の違いではなく、重要なのは色が赤いことであった」という一文を読んで、赤を好んだトルクメンの人々の純粋な心に触れたような気がした。もともと宝石や貴石が大切にされたのは、鉱物の色やきらめきの放つ力に人々が感応していたからだということがよくわかる。
 もはやこれらの装身具がどういう組合せでどのように身につけられ、どのような意味を持っていたかを解明することは不可能だそうだが、「赤い石」や「赤い衣装」は、砂漠をさすらう遊牧の女性たちに力や喜びを与えたのにちがいないことだけは、美しい装身具からストレートに伝わってきた。
スポンサーサイト

«  | HOME |  »

プロフィール

梶葉子

Author:梶葉子
読書のよろこびはなにものにもかえがたいものです。
私を実に実に遠くまで連れ去って
みえない世界を垣間見させ
そこに吹く風や漂う香りを感じさせてくれる
書物に感謝しつつ
ささやかな感想をしたためていきま

最近の記事

月別アーカイブ

カテゴリー

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

ブログ内検索

RSSフィード

リンク

このブログをリンクに追加する