2017-05

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〈こども〉のなかへ 1

伊藤文人・作文 やたみほ・ニット絵
『さかさもさかさ』・評(出窓社)
―「図書新聞」掲載

 こんな世界があったんだ。思わず吹き出してしまう楽しい絵本だ。
 著者の伊藤文人さんは、トリックアートの世界では知る人ぞ知る存在で、「日本のエッシャー」と呼ばれているそうだ。なるほど、「月夜に夢見るふくろう」をひっくりかえすと「丸太を背負った牛のおじさん」になってしまうのだから、一瞬、唖然。そして次の瞬間、「どうして牛が丸太を背負ってるの」って笑ってしまう。
 その絵がまた心和む。毛糸で編んだニット絵なのである。出てくる動物やおじさんたちが、なんともユーモラスなのは、このニットの編地のぬくもりのせいにちがいない。ニット絵を担当しているのはやたみほさんという若いアニメーション作家だ。絵を編みこんだニットのセーターは見たことがあるけれど、こちらは棒針編みあり、かぎ針編みあり、アップリケあり……さながらニットのコラージュである。
 さかさ絵のアイディアは伊藤さんが出すのだろうが、きっとやたさんもニットで表現するのがとても楽しかったに違いない。どの絵からも楽しさばかりが伝わってくる。
 私たちがだまし絵やさかさ絵に惹かれるのは、きっと、日常の視覚世界に息苦しさを感じているからなんだろう。四角いものは四角いままに、丸いりんごは丸くしか見えない日々を送っているある日、平面の額縁から少女が飛び出してきたり、手にとって触れられそうな果物が描かれていたりするとびっくりする。人間の視覚ってだまされやすいんだなあと思うとともに、ある枷をはずしてもらったようなうれしさも残る。だから心惹かれる。
 無数の点をじっと見つめていると、ある瞬間に、ぐっと立体的な事物が浮かび上がってくる絵ばかりを集めた本も人気である。これだって、ふっと目のピントをゆるませることで異世界をのぞきこむ体験が新鮮なのだと思う。
 同じ絵でも人によって全然違ったものに見える不思議さは、ロールシャッハテストで精神分析にも使われる。見るという行為は、なかなか奥深いのだ。
「さかさもさかさ」は、そんな視覚の不思議さを温かいユーモアでくるんで表現した絵本である。私たちはただ逆さにして、「なんで水に膝まで入った猫が、パンを加えた馬になるの?」って、その奇想天外さに笑い転げればいいのだ。さかさにすれば誰だってもう一つの絵に出会えるはずだ。よほど頭が固い人でないかぎり。
 1枚のさかさ絵に2つのお話がついている。それぞれ英訳つき。親子で家族で、1冊で何度も楽しめる。
 
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Author:梶葉子
読書のよろこびはなにものにもかえがたいものです。
私を実に実に遠くまで連れ去って
みえない世界を垣間見させ
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書物に感謝しつつ
ささやかな感想をしたためていきま

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