2017-09

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病理という世界へ 2

大沼孝次著
『ブラックジャックの名のもとに―日本医療の問題を探る』・評(長崎出版)
―「図書新聞」掲載

 マンガ『ブラックジャックによろしく』が400万部という驚異的な発行部数を記録したのは、医療ミスが頻発して病院や医師への不信が高まり、多くの人が現代医療に関心を持つようになった端的な現れだろう。
 単行本が2冊ほど出たとき「赤ひげやブラックジャックのようなヒーローを描くのでなく、どこまでもアンチ・ヒーローに徹することで、日本医療の暗部をえぐりだせ」と激励する書評を目にしたことがあって、印象に残っている。
 マンガは医療現場の救いのない現状を研修医、斎藤英二郎を通じて「救いのなさ」そのものとして徹底的に描いていく。佐藤秀峰はマンガならではの大胆な描写力で医療現場の悲惨さを、つまりは私たちがさらされている恐ろしい現実をストレートにつきつけるとともに、患者に向かい合う医師たちの様々な有り様を見事なまでに浮き彫りにした。
 病院が権力闘争や金儲け主義の跋扈する場所となってしまったり、人間の普通の生活感情からかけ離れてしまった経緯は、裁判所や学校や警察、あるいは政治といった「志」や「人間」への深い関心がその根幹にあるべきはずの仕事の凋落ぶりにもそのまま当てはまる。そこでは滑稽なほどに見事なヒエラルキーが支配していることでも共通している。
 話は医療現場がテーマだけれど、こうしたもろもろの現実へのやりきれなさ、その証左の400万部でもあると思う。それだけ、この作品が医療問題を超えて「時代」の抱え込む弱点を突いていたともいえるし、医療現場が時代の「病」そのものをもっとも端的に表す場所となってしまった皮肉な現状をあらわしているともいえるだろう。 
 そして、マンガ『ブラックジャックによろしく』の衝撃は、私たちをこんな思いにかりたてた。「ここに描かれている医療現場の実態は、果たしてどれくらい真実なのだろうか」……。
 誰もが抱いたその思いに答える一つの形が本書である。
 第1章「告発された現代の日本医学界の構造」では、研修医制度の実態、深夜の救急医療、医局の構造、医療 財政、医師の腕前と手術数の関係、小児科医の不足の問題、看護士の夜勤などがマンガのストーリーに添う形でていねいに解説され、検証されていく。
 第2章「現代の最新医療技術に対する検証」は、マンガに登場した病気に対する最新医療技術についてのレポートである。肝硬変、高血圧、高脂血症、腎不全、あるいは妊娠、出産に伴う病気や不妊治療、異常出産等に対する最新の治療法の紹介とその安全性や危険性が詳述されている。
 そして、結局は「医師とは何か」という「人間」の問題が問われることになる。第3章「登場人物の性格分析」に多くの頁が割かれているのはそのためだろう。著者の言葉を借りれば、医師たち「一人一人の胸の内に、今の社会の病巣が秘められている」のだ。
 ヒーローはいらないが、私の病としっかり向き合ってくれる医者にはいてほしい。この誰にも等しい願いは、どうしたらかなえられるのだろう。本書の著者は「自由診療と保険診療の両立化による経済の自由競争のなかで、病院もそれぞれ独自の競争を展開し、生き残りを図る必要がある」と考えている。病院が「経済の自由競争」にさらされることは、たしかにそんな医師と患者の出会いを作り得る条件のひとつかもしれない。けれども、患者の側にしてみれば、金がなければ治してもらえない現実が、それで変わるとも思えない。
 最終章で著者は「私たちは彼らのスペシャリストとしての高度な技術に頼り、また、そこに人としての誠実さを求めます。そして、それだけが私たちが医師に求められる限界であると思うのです」と述べている。まさにその「人としての誠実さ」こそが、研修医、斉藤英二郎の苦悩なのだと思うと、ますますやりきれない思いに襲われる。生き物を工業製品として扱い、ついには「牝馬に自分のクローンを生ませる」ところまで行き着いた人間に、どんな医療の道が残されているのだろうか。


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Author:梶葉子
読書のよろこびはなにものにもかえがたいものです。
私を実に実に遠くまで連れ去って
みえない世界を垣間見させ
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ささやかな感想をしたためていきま

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