2017-04

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〈こども〉のなかへ 2

斎藤次郎・福尾野歩・増田喜昭 著
『子どものスイッチ―みんなもってるすてきなチャンネル』(雲母書房)
―「図書新聞」掲載

 「子ども時代」が自分の生にとってどんなに大きな意味をもっていたかということが、今ごろになってわかってくる。五十代って、そんな年代ではないだろうか。子育ての真っ只中の時期を過ぎ、仕事に突っ走っていた日々が一段落して気がつけば、道も半ばをとっくにすぎて、午後の陽が傾いている。
 そこで、ふっと立ち止まって振り返ってみるのだ。自分が育った家、親、兄弟、親戚、近所の人、町、飼っていた犬や猫、木々の匂い、川の音……ああ、それが私だったんだ。過去の一こま一こまが経糸、横糸となって織り成された一枚の布、それが自分であって、それ以上でもそれ以下でもないことが、いまならわかる。そのどれがちがっていても、私は私ではなかったと思うと、過去のかけがえのなさがしみじみと感じられる。
 そんなことを思ったのも本書を読んで、私の「子どものスイッチ」が入ったからだろう。「子どものスイッチというのは、自分の中の子どもをよびさます魔法の仕掛けのことだ」と著者の一人、斎藤次郎さんはいう。だから何がおこるというわけでもないのに、ふと立ち止まったら、あたりの景色がとても懐かしく見えてくる。忘れていた子ども時代のちょっとした思い出がどんどん甦ってきて、なんだかうれしくなってくる。
 本書に登場する三人のおじさんは、そんな自らの「子ども時代」のかけがえのなさをエネルギーにして、現代の子どもたちが少しでもすてきな子どもの時間を生きられるようにと行動してきた、いまもバリバリ現役の少年である。
●斎藤次郎…子ども研究の第一人者で子ども応援マガジン「子どもプラス」の編集代表。
●福尾野歩…トラや帽子店というバンドを率いて各地を回り「人と人をつなぐ旅芸人」として保育者のセミナーをつづけてきた人。
●増田喜昭……子どもの本専門店「メリーゴーラウンド」を起点に子どもが本と出会う場づくりや子どもの遊び場づくりをしてきた人。   
 三人の多彩な活動については、本書(二泊三日の三人の合宿でのやりとりで構成されている)をじっくり読んでいただくとして、三人とも兄弟が多くて、末っ子で、つらい記憶や切ない思い出も含めて、子ども時代にたっぷりと愛情を注がれたことが、彼らの現在の行動力の源を形づくっているといっていいだろう。
 子ども時代に、大人になって一人で生きていけるだけの心の垣根をしっかりと築けるかどうかは、いたって単純で、「愛情をたっぷり注がれる」――この一点だけにかかっているといってもいいのだろうと私は思う。
 それさえあれば、子どもは安心して飛びまわれるし、怒られて少々いじけてもきっと立ち直れるし、やがては颯爽として巣立っていける。逆にその手ごたえを、子ども時代にしっかりと持っていないと、大人になってからつらい。現代という子ども受難時代に意志的に子どもと接することはさらにむずかしい。
 でも、おじさんたちは、その手ごたえは誰にでもあるのだよと言っているように思われる。自分の中に埋もれている「子ども時代」を掘り起しさえすれば、いま目の前にいる子どもと必ずや深く熱く渉りあえると。
 次郎さんは管理教育の強化されている現状を「学校教育はどうしようもないという世論をバックに、新しい道徳再武装が始まり、それはナショナリズムと結びついてきた。そしていま、『こころのノート』による心の管理が本格化し、教育基本法の改定(僕から見れば改悪)が日程に上っている。本当にあやういところにきているのをひしひしと感じています」と述べるいっぽうで、老人と童の「老童運動」をすすめようとしているらしい。「僕はぜひ子どもと年寄りの新しいジョイントをつくりたいと思っているの」「(略)老人の問題を視野に入れることが、子どもの問題を見直すきっかけになるんじゃないか、また、この両者がつながることで、『働きざかり派』の効率優先主義に歯止めをかけることができるんじゃないかと、そんなふうに考えているわけ」
 吉本隆明さんが「大学教授は定年になったら小学校の先生になるのがいい」、「老人ホームは幼稚園の隣につくるのがいい」と書いていたけれど、それに通ずるものがある。そんなジョイントができたら、年を取ることはすごくたのしみになってくる。
 学校教育の現場が、こうした在野の人々との交流によって変わっていくこともきっとあるだろうと期待したい。 
 「子どもとともに暮らすことの意味を深く掘り下げ、そうして得られる幸せをひとりでも多くの人たちと共有したい」そんな著者たちの思いは、私たちの共通する思いであることに変わりはない。


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Author:梶葉子
読書のよろこびはなにものにもかえがたいものです。
私を実に実に遠くまで連れ去って
みえない世界を垣間見させ
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書物に感謝しつつ
ささやかな感想をしたためていきま

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