2017-05

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家族をめぐって 2

田原敦子著
『転がる石はダイヤモンド』・評(第三文明社)
―「図書新聞」掲載

 あの田原総一朗の娘さんがテレビ朝日の「世界の車窓から」のプロデューサーであることを本書で初めて知った。田原総一郎のテレビのイメージからして……とちょっと構えて読み始めたのだが、肩の力の抜けたとても気持ちのいいエッセイ集だった。
 生き馬の目を抜くようなマスコミ界にあって、こんなふうに柔らかく自分をキープしながら、仕事や人間関係を深めてきた人はそんなにいないのではないかと思う。
 父、田原総一郎が好んで色紙に書いたと言う言葉、「しなやかに、したたかに」は、まさしく著者の生き方そのもののようにも思える。 
 何しろ、著者は「第一章父のこと」でのっけから、父の恋人について語りはじめるのだ。 
 私は未読だが、田原の『私たちの愛』は、ダブル不倫の末の恋の成就を描いた本として、かなりセンセーショナルな話題を呼んだ。著者に言わせると、「子供の頃から、何となく思っていた。『きっとパパには、ママの他にも好きな人がいる……』私の父は、本当に隠し事のできない人だ。自分の幼い娘からも、恋をしていることを見抜かれていたのだから」
 自分たちの恋愛が家族にはばれていないと思い込んでいたらしい父がほほえましい、愛すべき存在として描かれていく。この描写は少しも嫌味がない。寂しさに打ちのめされた日々もあったにちがいないが、「今の私には、母親が二人いる。一人は亡くなった私の産みの親で、もう一人が今の母だ。父が愛のメッセージを捧げた節子さんが、時は流れて、今や私の母となったのだ」とまで記すのだ。
 母親が亡くなって6年後、著者が結婚したあとで父と節子さんは再婚したのだから、何も母と呼ぶ必要もないように第三者には思われるのだが、あえて、「私の母となった」と記すところが、私には著者のしなやかなやさしさとしてうつる。そのやさしさは、無防備な少年のような父と、父をあくまでも尊敬してやまなかった母の関係性の中で育まれた、実に貴重な人柄ではないかと思われる。
 こんなことが少女期から二十代にかけてあったにもかかわらず、「年を重ねるごとに、父との間柄が密になっていくようである」と書ける親子関係がその証である。
 彼女の小学生のころは、父が映画『あらかじめ失われた恋人たちよ』を撮影した時期でもあった。この映画は桃井かおりのデビュー作としても知られるが、映画の出演者たちがよく遊びにきていたそうだ。そんなこともあって彼女は「とてもませていた」。高校生の頃から十歳以上も年上の人と付き合っていたのは、そんな家庭環境のせいもあったにちがいないと書かれている。
 いろいろな恋愛のエピソードがつづられる中で笑ってしまうのは、付き合っている恋人と連絡が取れなくなって「これは家で死んでいるにちがいない」と思うくだりだ。それが夜中だったので、父を起こして一緒に見に行ってくれるように頼んだというのだ。すると、父はよしわかったと言って、懐中電灯片手に一緒に確認に行ってくれたのだそうだ。「私の妄想に付き合ってくれた父には、今でも感謝している」。
 連絡が取れない→死んでいるにちがいない。この連想は、しかし、恋愛の一途さを示していて切ない。著者はしなくても「いい恋もある」と言うが、やはりそんな恋の積み重ねが今日の彼女を作り上げたのにちがいない。
 マスコミ界に入った著者がやはりなみでないなと思わせられるのは、お茶くみ時代から、「現在」を「収穫の時期」へ至る「耕す時期」として強く認識していたことだろう。こんな番組をつくりたいという企画書を週に1回ノルマのごとく、秘書の仕事をしながら上司に出し続けていたという。そんな積み重ねがあるから、やりたいことをやるには「要領」と「世渡り」も必須のスキルとさらっと言ってのけられるのだ。「したたかも使いよう」と言える背後に、著者が少女期の日々から学び取った一途さを見る。だからこそ、人間関係の栄枯盛衰にはびくともしない。
「いつも自分にとっての『好き』とは何か、それを追い求めて生きてきた」「自立とは『幸せに暮らす』ということだと思う」という著者のしなやかさに共感する。やっぱり、したたかとは程遠い、しなやかでやさしい人なのだと思う。
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Author:梶葉子
読書のよろこびはなにものにもかえがたいものです。
私を実に実に遠くまで連れ去って
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書物に感謝しつつ
ささやかな感想をしたためていきま

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