2017-09

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病理という世界へ 4

安井信之著
『ブレイン・アタック―手術させていただきます』・評(三輪書店)
―「図書新聞」掲載

 本書を手にとって驚いたのだが、実は私は今年の元日に本書の著者が所長をつとめる秋田脳血管研究センター(脳研センター)で診察をしてもらったのだった。 
 両親の住む秋田市に帰省中の元日の午後、激しい頭痛に襲われた。横になってもなかなかおさまらない。すると、両親と妹が、「脳研に電話しよう」という。元日だし、大したことないかもしれないし、そこまでしなくてもいいといったのだが、「もし、脳卒中かなにかの兆候であれば大変だから、脳研に電話していまの状況を説明すれば適切なアドバイスをしてくれるはずだ」といってきかない。病院が電話口でそんなに詳しく説明などしてくれるわけがないと横になりながら思っていたが、妹が電話して私の頭痛の症状をかいつまんで説明すると「多分大丈夫だと思いますが、念のため、すぐ来てください」という指示であった。
 さっそく車で脳研センターに行きほとんど待つこともなく診察してもらったところ、ありがちな頭痛で心配のない、という診断でほっとしたのだが、廊下で待っていると、脳卒中の発作に襲われたと思われる男性が搬送されてきて、ただちにMRI室へと運ばれていった。若い女性の医師のてきぱきと対応してくれたのが印象的だった。
 本書は私にあの元日の午後の一部始終をまざまざと思い出させてくれたのだった。
 秋田では昔から脳卒中は県民病として広く認知されていた。「あたった」(脳卒中で倒れること)とか「かすった」(発作や後遺症が軽かったこと)という言葉は日常茶飯事だった。そんななつかしい(?)言葉に本書で出会ったこともあって、いっそう本書に引きずり込まれてしまった。
 昨今の医療ミスの多発をはじめ、医療制度や医師への不信感は増すいっぽうである。にもかかわらず、秋田で肉親が脳研センターへ電話することをためらわず、また、電話で懇切なアドバイスが受けられることを当然のように語っていることに驚いたのだが、本書を読んで「なるほど」と納得した。
 あの秋田市の千秋公園の下にある脳研センターは、「脳卒中の撲滅」という志のもとに全国から集まった医師たちによる先進的な脳医療の実践、研究の場であり、そこでは外科や内科といったジャンルや学閥といった境界を越えて「脳卒中」というテーマのもとに医師たちが結集して、医療に当たっている日本で唯一の場所なのだった。「脳卒中は早期発見、早期治療が大切。なにかあったら、すぐ電話するようにと県民に強く呼びかけている」という、その成果は私の元日体験ではっきりと実感できた。
 秋田脳研センターは一九六九年に内科、外科、放射線科の三科で診療を開始した。開設当時の基本方針は「人材を得ること」「その人材を生かすこと」。「この二つの基本方針があったからこそ、東北というそれまでまったく縁がなかった私が秋田に来ることとなる、この血で力を発揮させることができたのです」と著者は記している。
 著者は京都出身で関西医科大学大学院卒業という履歴を持ちながら、秋田県脳血管研究センター(脳研センター)に赴任し、現在は第五代の所長をつとめて、秋田県の脳卒中撲滅に一命を賭してくださっている。「脳の美しさに魅せられて」脳外科医になった著者はこう語る。
 「日本ではまだ、自分が卒業した大学や提携病院などを離れて、よその施設に修業に出る人は多くありません。(略)私の考え方は違います。上司や先輩がどうであれ、医者はいずれ独り立ちし、技術は自分で責任をもつわけですから、自分の大学だろうとよその施設だろうと積極的に学んで、確信できる自分なりの脳外科を作ればいいと思います」(204頁)
 「一九九七年に新たに『脳卒中診療部』を設け、脳卒中に関わるすべての科が共同で医療チームをつくり、研究と診療を行っています」(219頁)。
 病気(部分)をみて人(全体)をみないと言われる現在の医療体制への見事な挑戦ではないか。
 本書は『ブレイン・アタック 手術させていただきます』というタイトルにあるように、秋田脳研センターを舞台に脳卒中の予防から最先端の診断・治療までがわかりやすくつづられたものである。脳卒中の発見を治療がどこまで進歩してきたか。また医師としての著者のこれまでの個人史も実に興味深いが、昨今の医療不信を払拭させてくれるような、熱い志に触れ得たことは大きな収穫であった。
 著者はあとがきでこう記している。
 「この本を綴った思いには、脳卒中・秋田県立脳血管研究センターを知っていただきたいということとともに、日本中の一人でも多くの方にこのセンターを利用していただきたいという願いもこもっています。来年から脳卒中再発防止のための精査の取り組みを始める予定です。脳卒中について何なりと、ご質問やご依頼があれば次のところにご連絡ください」
 こんな開かれた病院がわが郷里にあることを誇らしく思う。
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読書のよろこびはなにものにもかえがたいものです。
私を実に実に遠くまで連れ去って
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