2017-05

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〈本〉の彼方 3

澤田繁晴著
『輪舞 文学・美術散策』・評(審美社)
―「図書新聞」掲載

 文学・美術散策と銘打たれた本書だが、巻頭に「オノ・ヨーコ」が登場して意表をつかれた。「私が『オノ・ヨーコ』を取り上げるのは、ジョン・レノンとからめてではなく、オノ・ヨーコという単独の個人としてである」「私が感じるのは、オノの作品に漂っている不思議な『透明感』である。この透明感の根源を探るのが本文のテーマである」。
世間に流布しているヨーコのイメージとは一見ほど遠いと思われる「透明感」という切り口……のっけから著者のユニークな視点に惹きつけられた。
 『輪舞』というタイトルが示しているとおりこの巻頭の一文は三島由紀夫から深沢七郎へとつづき、さらに岡本かの子を経て梶井基次郎へと連鎖していく。この人選もなんともユニークである。作家たちの間を彩るように魯山人や広沢虎造、マリリン・モンロー、そしてセザンヌやマティス、ゴヤ、岡本太郎、棟方志功といった存在感たっぷりのアーティストたちが登場するのも魅力的で、これらの連鎖の底を流れる地下水脈のコクのある味わいをしばし堪能した。 
 著者は作家や画家たちへの既存の評価を丹念に引用しつつ、そこから独自の分析を試みていく。私たちが認識している作家たちの像のこれまで光を当てられることのなかった襞ひだの重なりや間隙から、新しい表情が浮かび上がってくるようだ。
 岡本かの子を取り上げた一文には「華やぐ命」とタイトルがつけられている。もちろん、『老妓抄』の「いよよ華やぐいのちなりけり」から採られているのだが、著者が注目するのは、かの子のまなざしである。
「かっと見開かれて、何かを、こちらを凝視している一方で、どこか茫漠、縹渺としたところがあり、その眼は、あちら、『過去世』をも同時に見ているのではないかと思われるところがある。時間的な深みを感じる所以である」。
 そして、かの子の『混沌未分』の中から「自分の一切を賽にして、投げて見るだけだ。そこから本当に再び立ち上がれる丈夫な命が見附かつて来よう」という一節を引き、さらには『家霊』の中から「『いのち』といふ文字には何か不安に対する魅力や虚無から出立する冒険や、黎明に対しての執拗な追求性―かういつたものと結び附けて考へる浪漫的な時代があった」という一文を引いて、「まなざし」と「いのち」を対応させてみせる。
 この「まなざし」は、さらに息子、太郎の視線について語る粟津潔の文章を呼び寄せる。「私には太郎の眼が、たえず、遥けき彼方をみているように映る」という粟津の文章に触発されつつ、著者は太郎が未来から過去へと遥けき視線を移し縄文土器に出会ったことを、かの子の『混沌未分』の主人公、小初と結びつけて考えるのだ。
 書物や美術作品を味わうとは、こうして出会いが出会いを呼ぶ豊穣さにほかならないだろう。
 豊かな連鎖のつらなりは、梶井基次郎をめぐる「闇の狩人」の論考に極まる。
 ここでのキーワードは「不吉な塊」である。この言葉は、梶井を読み解くキーワードとして日沼倫太郎や磯貝英夫、塩崎文雄、さらには桶谷秀昭といった多くの批評家が取り上げているものだそうだ。著者は彼らの文章を引用しつつ、この言葉は果たして虚無や闇の暗喩なのかと問い掛ける。
 「私がここで述べたいことは、『不吉な塊』が『えたいの知れない』、不可解で多義的なものであったとしたところで、その底には、非常に具体的な『痰』というものがこびりついているのではないであろうか、ということだけである」。つまり、「いかなる文学的な衣裳を纏っていようとも、梶井の文学の底流には『肺結核』という病気が、『こびりついた痰』のように横たわっているのではないかということである」
 死に至る病、肺結核という厳しい現実を見据えたときに梶井作品の「闇」はどのように迫ってくるのか。「白日さえもが闇であるという一元的な非在の世界」から「永遠の退屈」へ、そして「闇の世界内での止むに止まれぬ突進」から「呑気でいてやれ」という認識へと変貌していく梶井の作品の軌跡をたどりつつ、「『闇の絵巻』に突然あらわれた『呑気』という病気への対応方法は、凛冽な中、闇を切り裂いて突進しようとする梶井の意気込みが、肉体的に限界に達したことを自身が容認した段階でのものであると思う。『闘い』から『馴れ親しみ』への方向転換である。それは止むを得ない、苦渋に満ちた選択でもあったろう」
著者は、いずれの作家や画家の創作も生身の肉体と不可分ではありえないこと、そして生身の肉体はいわば美しい花を咲かせるための腐葉土のようなものであることを伝えたかったのかもしれない。そして、その腐葉土の下には凛冽な地下水脈がとうとうと流れ、人類の内部の海へとつづいていることを。

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Author:梶葉子
読書のよろこびはなにものにもかえがたいものです。
私を実に実に遠くまで連れ去って
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書物に感謝しつつ
ささやかな感想をしたためていきま

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