2017-07

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ジェンダーをめぐって 3

仙波千秋 著
『良妻賢母の世界 近代日本女性史』評(慶友社)
―「図書新聞」掲載

 「良妻賢母」といういわば死語めいた言葉の背後に広がる世界に分け入り、良妻賢母思想は女性を抑圧するイデオロギーであるというだけでは括れないという視点に立って近代日本女性史を読み解いていく意欲的な労作である。
 著者は本書において「『良妻賢母』たれと求められる中で生きる場を築き自己実現を果たそうとした女の多様な営みを描き出すことを目的とする。既成の『良妻賢母』のイメージにとらわれずに女のさまざまな営みを描き出し、明治という時代を生きた女の姿を明らかにしていきたいと考える」と述べる。
そのために取られた方法が実にユニークである。明治期に次々と発刊された「女学」の雑誌を資料とし、しかも、編集者や執筆者の記事を検討するのでなく、投稿や投書を通じて読者である女性たちの思いを読み取ろうと試みていく。
 今日の女性誌の淵源をたどれば、この明治期の「女学」の雑誌群に行き着くだろう。女性のライフスタイルの変化に応じて、女性雑誌は変遷を遂げてきたが、多くの女性たちが雑誌を通じてさまざまな生活上の情報を得、それをヒントに自分の生き方を考えてきたという相互関係はいまでもまったく廃れてはいないように思われる。
 ましてや明治初期のように圧倒的に情報量の少ない時代にあって、「女学」の雑誌が女性たちに及ぼした影響は計り知れないものがあったにちがいない。私たちはこれまで「性差別の抑圧とそこからの解放」という視点で女性史をたどることに終始してきたように思われる。もちろん欠かすことのできない重要な視点であることには違いないが、「新しい女たち」がいるいっぽうで、ごく普通に暮していた圧倒的多数の女性たちは自分たちの「女性性」をいったいどのように考えていたのか。著者は女学の雑誌を読み解くことを通じて、時代の波に翻弄され、男=国家の論理に巻き込まれる日々の中で、女性たちがただ唯々諾々とその生を男に捧げていたのではなかったことを明らかにしていく。そこには二十一世紀の現代を生きる私たちのジェンダーの無意識層をも炙り出す重要な手がかりが潜んでいることにも改めて気づかされる。
 第一章では、「女学」の雑誌の勃興期とその変遷に光をあて、「当初男が女のあり方を議論することを目的としていた」女学の雑誌が、「女子教育の拡大により雑誌の購読者が増加する中で、女が自らの生きる途を模索する場となっ」ていく様子が丹念にたどられる。
第二章では『女学世界』を媒介に、女学生の登場、女学校の寄宿舎、裁縫女学校や職業学校を取り上げる。若い女性にとって「「一芸」を以て生活の糧を得て家庭を担うことは、「良妻賢母」像にとって欠くべからざるものであったという指摘は新鮮である。
 第三章のテーマは「家庭」である。明治中期以降、「家庭の担い手」としての女性の果たす役割の重要性がこぞって雑誌に取り上げられるようになり、そうした情報を手がかりに自分たちの生き方を模索する女性たちの姿が、雑誌への投稿・投書を通じて明らかにされていく。「家族」「家庭」「一家団欒」といった言葉はこの時期、誌上に登場して認知されていく様子が明らかにされている。
最終章では雑誌への投稿や投書を通じて女が自ら筆を執り投稿・投書することに込めた志を丁寧に読み取っていく。
 私たちの祖母や母の時代において、抑圧と疎外の只中で自ら築くべき「家庭」は彼女たちの自己実現のかけがえのない場所であった。彼女たちは文字通りそこを自らのホームとして充実させるために料理や裁縫の技を学び、雑誌への投稿や投書を通じてお互いにエールを交換し合っていたのである。
 それは良妻賢母という規範への女性の側からの反撃であったかもしれない。人間の生の基本は「生活」であり「生活」の場所を切り盛りすることは自己実現と不可欠であるという熱いメッセージがそこに込められているだろう。そしてそれは、ジェンダーを超えて生活者として自立する人間にとっての基本であり、いまもあり続けているはずだと本書は私たちに語りかけてくるようだ。明治期の女性たちのこうした模索の積み重なりの上に私たちの今日が存在するのだと。
 「抑圧・疎外された存在ではなく、時代の子として自らの足で歩もうとした女の姿を、明治を生きた女の言葉を以て再現していくことを本書の使命と考えている」という著者の思いは十二分に果たされていると思われる。
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プロフィール

梶葉子

Author:梶葉子
読書のよろこびはなにものにもかえがたいものです。
私を実に実に遠くまで連れ去って
みえない世界を垣間見させ
そこに吹く風や漂う香りを感じさせてくれる
書物に感謝しつつ
ささやかな感想をしたためていきま

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