2017-05

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

物語のなかへ20

大倉真道 著『聖霊少女(セイント)「錫(スズ)」の大冒険――闇と光の戦い』(竹林館)
―「図書新聞」掲載

 錫(すず)という、一風変わった名前を持つ少女がこの物語の主人公である。全二一章、総ページ数八五〇頁を越える超大作だが、面白くて一気に読み通してしまった。
 女性性の一つの特質として、巫女性があげられると思う。それは女性の神観念と密接に結びついているだろう。女性にとって神は性を超えた絶対的な存在というよりは、対の関係性の中で浮上してくるかけがえのない存在である側面が強い。ところが世界の悪と戦う聖霊少女、錫には対幻想的な視点というか異性観念が希薄なのだ。なぜなら、彼女は両性具有的存在として物語の中で位置づけられているからだ。
 錫の二人の親友は彼女をTTO、「単純、天然、臆病」と揶揄するが、性を超えた錫のキャラクターが、この物語を自由な風の吹き渡るファンタジーにしていると言ってもいいだろう。
 タイトルは聖霊少女と銘打たれているが、聖霊とはこの物語では「聖霊師」という職業としてまず登場する。
 「聖霊師は悪霊を追い払う除霊とは違い、悪に冒(おか)された霊を元の善なる御霊(みたま)に戻してやること」とある。霊はもともときれいなものであるという認識のもとに、霊に付着した汚れを取り去ってもとのきれいな霊に戻すのが聖霊師なのである。人間存在の根幹は聖霊であるからこそ、錫や少女たちは世界を悪から守るために戦うのだ。
 錫は十八歳になったのを機に聖霊師である父の見習いをつとめるようになる。人間界では十八歳の少女であるが、実は神の国では非常に高い霊能力を備えた霊神の一人、〈錫雅美妙王尊(しゃくがうましみょうおうのみこと)〉であり、重大な使命を帯びて人間界にやってきたという設定である。本編はファンタジックにつづられた錫の成巫儀礼の修業の日々と言っていいかもしれない。
 たぐいまれな霊力をそなえつつTTPな錫を支えるのは、二人の親友と祖母、母、そして錫の祖父とともに修業を積んだイタコの〈気障(きざわ)りの婆(ばあ)〉である。この女性たちの時空を超えた靭帯が錫の任務遂行をサポートしていく。物語の発端をつくった祖父も聖霊師の父もこの物語ではいわば脇役。連綿とつづく女性たちの物語と思うと、いっそう爽快である。そういえば、神の国のいちばんエライ〈天甦霊主(あめのそれいぬし)〉も女性のようだ。気持ちよく読み通せたのはそんなことも影響しているかもしれない。
 天上は死んだ者の魂が平和に暮らす楽園、白の国と生前素行の悪かった人の魂が行く言わば地獄のような黒の国と、もう一つ、白の国を支配しようとする邪悪な狡狗たちの跋扈する拗隠の国がある。狡狗たちとの戦いに威力を発揮する宝器は人界のどこかに隠されている。それを発見するために人間界に派遣されたのが錫なのだ。
錫のかたわらには狡狗から錫が救い出した狛犬みたいな存在、「いし」がつき従っている。
 錫といしの信頼関係も、この物語を奥行きのある深々としたものにしている。霊の力は人間と動物の言葉を超えた交感に置き換えてみるともできるのではないだろうか。疑うことのない無辜な存在に向き合ううちに魂が通じ合う……動物好きな人なら日々感じていることだ。そう考えるとこの物語はありふれた日常を、視点を変えて捉えてみたともいえるのかもしれない。
 錫(すず)の母は鈴子(りんこ)、大切な神器のひとつが集気鈴……世界に鳴り響く美しい鈴の音と温かみのあるユーモラスな会話が時空を超えた聖戦をどこかのどかなものにしている。本編が『錫』シリーズ第一弾となっているところを見ると、錫の戦いはいま緒についたばかりなのだろう。天上界にも人界にもまだまだ一波乱も二波乱もありそうだ。錫を応援しながら錫から元気をたっぷりもらった。次回作が楽しみだ。
スポンサーサイト

«  | HOME |  »

プロフィール

梶葉子

Author:梶葉子
読書のよろこびはなにものにもかえがたいものです。
私を実に実に遠くまで連れ去って
みえない世界を垣間見させ
そこに吹く風や漂う香りを感じさせてくれる
書物に感謝しつつ
ささやかな感想をしたためていきま

最近の記事

月別アーカイブ

カテゴリー

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

ブログ内検索

RSSフィード

リンク

このブログをリンクに追加する

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。