2017-09

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〈本〉の彼方 8

寄川条路 著『東山魁夷―ふたつの世界、ひとすじの道』
(ナカニシヤ出版刊)
―「図書新聞」掲載

 東山魁夷といえば、独特の青やエメラルドグリーンの作品がすぐ目に浮かぶ。本書の表紙にも緑が美しい『緑のハイデルベルグ』が使われている。しんと静まりかえっているのに、無数の声で満ちているようにも感じられる豊穣な世界……そんな作品の魅力の淵源に触れることができる一書である。
 本書は一九八三年にドイツの三都市で開かれた東山魁夷の展覧会を受けて、翌年一月に東京の日独友好協会で行われた魁夷の講演を適宜紹介しながら、著者が解説を加える形でまとめられている。読者は魁夷の肉声を聞くように、魁夷の創作に対する思いにふれることができる。
 北欧の風景を題材にした魁夷の幻想的な作品は私たちにも親しいが、二つの世界、東西を融合し昇華していく魁夷の創作活動のそもそもの出発点は、二十代のドイツ留学だったという。魁夷がフランスでもイタリアでもなくドイツを留学先に選んだのは、西欧美術史をじっくり学びたかったことに加えて、当時のドイツにはヨーロッパの貴重な絵画作品が数多く集まっていたからだと著者は解説している。若き日のドイツでの日々は魁夷の北の風土への傾斜を深め、のちに風景画家としてゆるぎない地位を確立していく基盤となっていったのに違いない。
 魁夷は聴衆を前に、日本画のルーツや、画材と技法についてもわかりやすく語っていく。日本画のルーツは、大和絵に端を発しているそうだ。明治の開国を経て、洋画の技法がどっと日本に流れ込んできたときに日本画が駆逐されなかったのは、大和絵以来の固有の伝統が日本人の心の中でしっかりと息づいていたからだろう。自然の鉱物を砕いて岩絵具をつくり、それを膠で溶いて絹布や和紙に描いていくプロセスそのものが、私たち日本人の自然との向き合い方、精神の源流をさかのぼる道筋に似ているような気がする。日本画の余白を生かした空間処理や陰影を描かずに奥行を感じさせる技法などには、日本の他の表現分野にも通底するものがある。
 日本画と洋画の境界がボーダーレスになって久しいが、魁夷は若い時期から自らの魂の赴くところに従って日本とヨーロッパ、この二つの世界を行き来し、日本画を広々とした場所へ連れ出した、いわば先駆者である。東西の文化の違いを深く掘り下げていくと、人間の魂が共振しあう、美をたたえた湖のようなものがあるのではないか。魁夷の美しい緑の世界は、その湖を象徴しているのかもしれない。
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梶葉子

Author:梶葉子
読書のよろこびはなにものにもかえがたいものです。
私を実に実に遠くまで連れ去って
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書物に感謝しつつ
ささやかな感想をしたためていきま

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