2017-09

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物語のなかへ 3

国立歴史民俗博物館 編
『装いの民俗誌』・評(慶友社)
―「図書新聞」掲載

 『装いの民俗誌』というタイトルに興味をそそられた。
 装うことで他者や外界がくっきりと立ち現れ、装った自身も新たな自己と対峙するとでもいったような「装い」の根源的な意味性や、柳田國男が『木綿以前のこと』でたどった木綿と麻の交替劇など想起することすらない現在だが、「装い」と言う言葉は、暑さ寒さから身を守る実用としての衣類というだけではない、精神的な領域を感じさせる。
 ファッションの多様化といった諸相にとりまぎれて私たちの衣の歴史はほとんど顧みられず、和服だけが民俗衣裳としての象徴性を付与されている現在を思うとき、衣の歴史や衣を取りまく暮しをじっくり眺めわたしてみることは重要な意味を持つと思われる。
 本書は、平成十年の夏に国立歴史民俗博物館において展示された「布のちから・布のわざ」に連動して開催された第23回歴博フォーラム「衣のフォークロア」から発展した考察を取り上げてまとめた論考集である。
 「はじめに」において、その重要性が次のように語られている。
 「『衣のすがた』には着る者の自己認識や自己表現が深く刻みつけられており、意識的であれ無意識的であれ、社会的な同化や異化が込められているものです。また、人は「衣」を着分けて人生の節目を示し、『ハレ』や『ケ』を表象することに利用し、季節の移ろいを『衣替え』によって表現する、あるいは性差や年齢さを明快に(あるいは微妙に)示すなどといった、民俗的な諸機能が付与されているものでもあります。そこには暑さ寒さをしのぐという、単なる物理的な観点からだけでは理解し得ない人間的な要素がたくさん含まれているといえます。」
 以下の三つの章において「衣」の諸相が考察される。
 第一章は「衣の歴史」として、「着る飾る」の流れを大きく概観する「着る飾るの過去・現在・未来」(佐原眞)が掲載されている。男装と女装、祈りの飾りと力の飾り、和装から洋装への変化と女性の社会的存在の変遷など、多くの興味深い研究も合わせて紹介されている。
 第二章は「化粧と死装束」。「死に装束を用意するということ」(大原 子)は、死装束を生前にデザインして用意することを提案して、死を生の側に主体的に引き寄せようとすることの意味を語る。続く「死者の衣服のフォークロア」(中村ひろ子)も、人はいつ死者となるのかを、死装束の考察を通じて丁寧にたどる力作である。誕生して人となることも、死んで死者となることも、衣服の着替えによって人々に認知されること、そこには着替えに要する一定の時間が必要であることなどは、脳死判定の問題と通底するものでもあるだろう。
 死者の着物は左前に合わせる、帯は立て結び、足袋や草履は左右反対などの葬送儀礼から、「衣服からはこの世とは反転した、あるいは逆転した世界としてのあの世が見える。この反転した世界は短に日常と異なる世界というだけではない。あの世はこの世の日常に対する鏡に映る日常であり、実に対する虚としてイメージされたのではなかろうか。」 と述べている点も興味深い。
 死者の死装束は奪衣婆によって三途の川で奪われるが、それは生まれてくる赤子のエナギ(お七夜まで赤子をくるむもの)になるという。「魂の再生」が死装束やエナギを通してー生と死をつなぐ衣服を通して語られることで、人々の思いが見えてくるようだ。
 現在の私たちの死装束は、葬儀屋の用意する既製品である。「魂の再生の物語」が入りこむ余地はどこにもない。
 第三章は「技と伝承」。丹後の藤織りや、佐渡の裂き織りなど丹念なフィールドワークや保存活動が報告されている。織りを担ってきた年老いた女性たちの写真が掲載されているが、その豊かな表情は、物を作ることの困難さとその困難さを通してしか手にできない愉びが、生活そのものであった人々の暮しを伝えてあまりある。
 柳田が自らの民俗学の根底に女性という視点を据えていたことの意味をいまさらのように考えさせられる一冊でもある。 
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Author:梶葉子
読書のよろこびはなにものにもかえがたいものです。
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ささやかな感想をしたためていきま

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